賃貸の資料公開
各マンションにおける対応の稚拙さを責める前に、滞納管理費に関する請求方法には、日本的な温情主義が共通してよく表われていると指摘する人もいる。
たとえばアメリカでは支払日から一五日を過ぎれば即、滞納額に一定の利率をかけて算出する遅延損害金が発生するという。
もちろん滞納期間がさらに延びれば損害金の利率も引き上がるし、すべてが早々に弁護士に移管されるというのである。
一方、日本の場合はどうかというと、二ヵ月滞納があってまずは普通郵便で請求し、三ヵ月たつと配達証明つき書留郵便で再度請求、半年たって初めて内容証明で督促するというのが滞納者簡易裁判所に申し立てるのは弁護士の力を借りなくてもできるし、費用も裁判ほどにはかからない。
おまけに始まれば月一回くらいのペースで調停の場が開かれることから、裁判に比較して簡単なためこれが一般的な対応のようだ。
もちろん弁護士に相談するというのはそのまた先の話で、滞納者の存在はわかっていながら一年以上そのまま放置というようなマンションもけっして珍しくはない。
内容証明にいたるまでの間は、仮に遅延損害金について管理規約にしっかりと明記されているようなマンションでも、そのカネを事務的に請求しているようなことはほとんどないようだ。
普通は、これはもう裁判しかないというような段階までトラブルがエスカレートしてしまって、はじめて損害金についてどこまでさかのぼって請求しようかという検討がされる。
本来、遅延損害金に関する取り決めは、相手に対して圧力をかけることで、そこまでの事態に陥らないようにするための道具であるはず。
ところがそれがまったく用をなしていないのである。
事実、内容証明による督促も効果がない相手であるとわかってから、理事長はじめ組合員全員が現実の深刻さを認識するケースが多いようだ。
ここまできてやっと、断固とした処置を取るこその方法は大きく二つの手段に分けられる。
一つは民事調停、もう一つが裁判である。
民事調停は、話し合えばわかり合える可能性の残された相手に対して、簡易裁判所に申し立てることによって公平な第三者に間に立ってもらい、話し合いの場を持つ方法だ。
簡易裁判所にあるミニ会議室のような部屋で、普通、二人一組の調停委員にそれぞれの言い分を聞いてもらうのとになる。
段ちがいに早く解決する可能性もあるC調停が成立して調停調書が作成されれば裁判の判決と同様、内容を履行しない相手に対してはその財産に対して強制執行をかけることもできることから、この調停という解決方法は効率的といえなくもない。
けれどもこれはすべて調停がまとまればの話であって、調停そのものが不調に終わればただの時間の浪費ということになる。
話し合いがまとまるかまとまらないかは、ひとえに調停委員の裁量にかかっている。
聞くところによると調停委員の先生方は元弁護士や元校長先生といった人たちだそうだが、はっきりいってアタリとハズレがあることは否定できない。
もちろん申立人には調停委員のご指名などできるわけがないので、双方の言い分をただ単に、そうでしょそうでしよ、と聞いているだけで、まとめようという意思のまったく感じられないハズレの調停委員に当たったとしても、残念ながら運が悪かったとあきらめるほかない。
話し合いの余地なしという相手に対しては、いよいよ裁判ということになるわけだ。
ただ、管理費滞納請求のような申し立てに関する裁判は、いわゆる世間一般にいうところの裁判ではなく、支払命令というスタイルを取る場合が多い。
支払命令も裁判にはちがいないのだが、正式裁判とは異なり、申し立てる側だけの言い分を聞いて裁判官が支払えと命令を下すというシステムである。
原告、被告双方の言い分を書面にして、弁論を聞きながら提出された数々の証拠を検討し、やっとのことで裁判官から判決をいただくという正式裁判とはちがって、支払命令の場合は、相手方が一定期間内に異議申し立てを述べなければ判決が出たのと同じ効力を得ることができる。
管理組合は、晴れてこの命令にもとづき滞納者の動産なり不動産なりを強制執行することで滞納193管理費の滞納者に対してはどのように接したらよいのでしょうか、という質問に対しての答えは、おおかた似たようなものである。
ここでもう一度おさらいすると、電話や面接でまず請求、効果がなければ配達証明付きの請求書を送付して、それでもダメなら内容証明で督促、で、ラチがあかなければ調停の申し立て、それも不調に終われば支払命令か正式裁判で支払いの債務名義(債権者である管理組合と債務者である滞納者との間の私法上の給付債権が強制執行によって実行できることを法律上認めた公文書)を取って強制執行をかければ、これにて一件落着。
こう読むといかにもトントン拍子に物事が進みそうに思えてくる。
少なくとも前向きに対応しさえすれば、そこには明るい未来があるような気がする。
健全なマンション運営に支えられた明るい未来をめざして、これがダメならあの手があるさ、という感じで物事が明快に一歩一歩進むような気分になる。
ところが現実はそれほど甘くない。
債権の回収というものは、そんなナマ易しいものではないのだ。
スパスパ包丁で物を切るように段取りよくコトが前に進むことはまずないと思っていたが終わっている。
抜け穴だらけの管理規約マンション運営に関連した法律相談というような書物をひもとくと、たいていこのへんで解説がよい。
実際にはもっとずっとドロドロ、ネバネバしながら少しずつ前進していくか、さもなくばその途中で往々にして頓挫してしまうというようなケースの方が多いのである。
というのは、どの手段を講じるにしても、請求する側の現場の不手際によって、請求される側から思いも寄らぬ逆襲に遭うことがあるからだ。
たとえば滞納があることを証明する基礎的な根拠となる支払期限について、管理規約の中にきちんと明記されていないマンションさえ存在する。
支払期限の取り決めがないと、そのマンションの管理費は一体、当月払いなのか前月払いなのかさえはっきりしない、ということになる。
結果としてどういう問題が起きるかというと、いざ支払命令を申し立てようと決断してもそれができないという事態もありうるのだ。
札申し立てをするには、請求の趣旨及び原因について裁判所に対してそれなりにきちんと説明しなければならない。
それが支払いの期限についてさえ不明確な管理規約しかないと、そのために説明がつかないというようなこともしばしば起きるのである。
かもちろん、支払いの期限について不明確なマンションが世の中に存在するくらいなのだから、滞納に関してあらかじめきちんとペナルティー条項を盛り込んでいるようなマンションとなると、さらにその数は少なくなる。
滞納金について遅延損害金を課す、などということが管理規約にしつかりとうたわれていないのだ。
取り決めがなければ、民法第四○四条にある法定利率の規定によって、利率は年五パーセントということになってしまう。
ところがこれで滞納者にプレッシャーがかかるかといえば、とても十分とはいえない。
仮に月四万円の管理費を一○ヵ月ためたとして滞納金は四○万円。
それにかかる遅延損害金は月わずか一六六六円にしかならないのだ。
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